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大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)4734号 判決

原告 川崎鉄網株式会社

被告 株式会社梅本商行 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告株式会社梅本商行(以下単に被告梅本商行と略称する。)及び同梅本二郎は、(イ)金額一、七一〇、九七九円、満期昭和二七年一一月一〇日、支払地、振出地ともに大阪市、支払場所株式会社帝国銀行天六支店、振出日同年一〇月二五日、振出人大阪川崎鉄網株式会社(以下単に大阪川崎と略称する。)受取人被告梅本商行とした約束手形により大阪川崎が被告梅本商行に対して負担する債務につき、原告が保証債務を負担しないことを確認する。被告摂津鉄線株式会社(以下単に被告摂津鉄線と略称する。)及び同石村安雄は、(ロ)金額二七五、〇〇〇円満期昭和二七年一〇月二五日、支払地吹田市一四二二番地、支払場所株式会社協和銀行吹田支店、振出地大阪市、振出日、同年八月四日、振出人大阪川崎、受取人被告摂津鉄線とした約束手形により大阪川崎が被告摂津鉄線に対して負担する債務につき、原告が保証債務を負担しないことを確認する。被告等四名は連帯して原告に対し金八、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和二七年一一月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。被告梅本商行及び同梅本二郎は連帯して原告に対し金一、四二九、八九九円八八銭及びこれに対する昭和二七年一一月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並びに金員支払の部分につき仮執行の宣言を求めその請求の原因として、原告会社は鉄網の製造及び販売を業とする会社であるところ、昭和二七年二月二二日大阪川崎の代表取締役角野金次郎から、同年二月二〇日現在大阪川崎振出の約束手形で未決済のものが合計一五、〇〇〇、〇〇〇円あるが、右手形債務は既に納品済の売掛代金及び今後納入する製品代金を回収すれば皆済しうる見透を持つている。しかし現時の経済界の実情からすると、予定通り入金しないことも予想されるので、若し右手形金の決済に支障を来せば、材料入手にも甚しい困難を来し、社業に大頓挫を来す虞れがあるから、原告会社において右手形債務の支払を保証して欲しいとの懇情があつた。原告会社は大阪川崎とは法律上も経済上も別個独立の会社であつて、何等前記のような保証をなす業務はなかつたのであるが、沿革上の或る因縁から、昭和二七年二月二二日以前に大阪川崎振出の約束手形に限りその支払を連帯保証することを承諾し、右角野金次郎を通じて被告梅本商行及び同摂津鉄線に対しそれぞれ甲第一、二号証の保証書を差入れ右両被告との間に保証契約を終結したが、その後大阪川崎は同年六月中に前記保証の対象となつた約束手形の決済をすべて了したので、原告会社の前記保証債務も消滅に帰した。ところが、被告梅本二郎は同梅本商行から(イ)の約束手形につき、被告石村安雄は同摂津鉄線から(ロ)の約束手形につき、各隠れたる取立委任裏書を受けたが、右各手形が不渡となつたので、原告会社が右各手形債務につき連帯保証をしているとして、昭和二七年一一月一一日被告梅本二郎及び同石村安雄はそれぞれ弁護士坂井宗十郎代理人として、原告会社を相手とし、大阪地方裁判所に対し、右連帯保証債権執行確保の為、動産仮差押命令を申請し、同庁昭和二七年(ヨ)第二二七四号及び同年(ヨ)第二二七三号各仮差押決定に基き、同月一三日被告梅本二郎は原告会社の製品及び材料を、被告石村安雄は原告会社の什器をそれぞれ差押えた。しかれども、原告会社は、前記のように昭和二七年二月二二日以後に大阪川崎が振出した(イ)(ロ)のような約束手形については、その支払を保証したことがないから、被告梅本商行及び同梅本二郎に対し(イ)の約束手形につき、被告摂津鉄線及び同石村安雄に対して(ロ)の約束手形につき、いずれも原告会社が連帯保証債務を負担しないことの確認を求める次第である。

つぎに、被告等は、原告会社が先に被告梅本商行及び同摂津鉄線に差入れた前記証書が手許に残存するのを奇貨として、被告梅本商行は同梅本二郎と、被告摂津鉄線は同石村安雄と、それぞれ協力し、同時に前記差押を敢行したものであるが、右差押当時被告等はいずれも、原告会社の連帯保証責任の範囲は前記証書の日附である昭和二七年二月二二日以前に大阪川崎が発行した手形債務に限られ、同日以後大阪川崎が振出した(イ)、(ロ)の約束手形に及ばないことを、前記証書の「大阪川崎鉄網株式会社が貴社に対し発行せる支払手形については弊社において連帯してその責に任じ万一の場合と雖も決して御迷惑をおかけ致しません、右保証します」との文言自体からして、或は前記のように大阪川崎と全然別個独立の関係にある原告会社が、大阪川崎が将来に向つて時間的にも金額的にも何等の制限なく発行する手形債務の全部について、連帯保証するというようなことは実業界の常識上あり得ないことからして、充分知悉していたし、仮にそうでないとしても、右証書の文言並びに条理よりして、少しく注意を払えば、原告会社の連帯保証責任の範囲について疑義を抱き、少なくとも仮差押前に直接原告会社に対して前記証書の趣旨及び証書発行の経緯を照会して、真相を解明した上法的措置を決定するのが当然である。仮に原告会社の連帯保証責任が(イ)、(ロ)の各約束手形に及ぶとしても、原告会社は(イ)(ロ)の各約束手形債務について、被告梅本商行及び同摂津鉄線に対して、それぞれ連帯保証したのみであつて、決して被告梅本二郎及び同石村安雄に対して連帯保証したことはない。また、被告梅本二郎及び同石村安雄がそれぞれ被告梅本商行及び同摂津鉄線より(イ)、(ロ)の約束手形の裏書譲渡をうけたのみでは、右手形債権はともかく、手形外の前記連帯保証債権は移転するいわれはない。これを移転するには、別途に債権譲渡の手続を履践することを要するのであるが、原告会社は被告梅本商行及び同摂津鉄線から全然かかる債権譲渡の通知をうけていない。更に前記裏書は、被告梅本商行及び同摂津鉄線が、それぞれ、被告梅本二郎及び同石村安雄をして、本件各仮差押をなさしめることを主たる目的としてなされたものであるから、訴訟行為をなさしめることを主たる目的として信託をした場合に該当し信託法第一一条に違反して無効である。したがつて、これらの点からしても、少しく注意を払えば被告梅本商行及び同梅本二郎は、被告梅本二郎において(イ)の約束手形についての前記連帯保証債権を、被告摂津鉄線及び同石村安雄は、被告石村安雄において(ロ)の約束手形についての前記連帯保証債権を、それぞれ行使し得ないことについて知り得た筈である。

更に、被告等は、原告会社が創業以来社歴古く、業界並びに金融機関に対する信用は厚く、営業成績も極めて良好であり、評価額三〇、〇〇〇、〇〇〇円を下らない固定資産を有し、財産状態も積極財産超過の状態にあつたのであるから、原告会社の貸借対照表、土地建物登記簿を閲覧すれば、取引銀行その他について信用状態の調査をなすまでもなく、容易に本件仮差押をなす必要のないことを知り得たのに拘らず、何等原告会社の社歴業態、信用状態等の調査をなすことなく、漫然仮差押の措置に出で、しかもその目的に損害の少い不動産を選択せずして、営業活動に多大の支障を来す製品並びに材料等の動産類を選択するの不当を敢てした。

これを要するに、被告梅本商行及び同梅本二郎は、被告梅本二郎が、被告摂津鉄線及び同石村安雄は、被告石村安雄が、いずれも原告会社に対して前記保証債権を有せず、かつ本件仮差押をなす必要のないことを知悉し乍ら、故意に原告を威嚇して、右連帯保証債権を認めしめる手段として、これを敢行したものであるか少なくとも、必要な注意を怠つた結果右連帯保証債権を有する旨誤解し、且つ必要性なきに拘らず漫然仮差押を敢行した点において過失(必要性なきに仮差押を敢行した点については少なくとも重過失がある。)があるというべきである。

原告会社は被告等の本件仮差押より次の通りの損害を蒙つた。

(一)  信用上の損害(金一五、〇〇〇、〇〇〇円)

原告会社は明治四一年男爵岡崎家の個人事業として創業せられ昭和一七年三月五日会社組織に改組された金網製造販売を目的とし、資本金二、五〇〇、〇〇〇円の会社であるが、創業古く、創業以来堅実な営業方針の下に業績も遂年向上の一途をたどり、業界に不抜の地位を築いてきた関係から、金網業界はいうに及ばず、材料仕入先、顧客、及び取引銀行に対する信用は厚く、多額の自己資本なくとも専ら信用に依存して、事業の順調な運営をしてきたものであるが、前記仮差押を受け、仮差押異議訴訟が係属中なることが巷間に伝播するに及び、取引銀行からは融資の継続、新規の借入を拒絶され、同業者材料仕入先等は従来通りの代金支払条件では取引を渋る傾向が顕著となり、顧客筋に対する信用を失墜し、昭和二七年一二月以降同二八年二月までの約三ケ月間は約二〇%の販売高の減少を来し、内は従業員の不安動揺著しき為生産意慾は低下し、事業能率は減少する等内外の信用失墜の為原告会社が従来通りに営業を継続する為には、差当り金一五、〇〇〇、〇〇〇円の自己資本を必要とする事態に立至つた。

右は被告等の本件仮差押により原告が蒙つた損害である。

(二)  現実的損害(合計金一、四二九、八九九円八八銭)

(1)  材料差押による損害(金五六五、六五三円八八銭)

(イ)  手待の為作業休止三日間の損害(金一一五、〇〇〇円)

原告会社が本件仮差押当時顧客より受注していた蛇籠の製造に引当の材料を仮差押された結果、差押当日である昭和二七年一一月一三日より同月一五日までの三日間、蛇籠の製造関係の作業の大部分を休止するの已むなきにいたり、その為蛇籠製産高が約七屯減産を来した。当時の時価からすると、蛇籠一屯当り金一六、〇〇〇円の販売利益を揚げ得たから、右蛇籠約七屯の減産により約合計一一二、〇〇〇円の得べかりし利益を失い、同額の損害を蒙つた外、手待の為休業した従業員に支払つた賃金合計金三、〇〇〇円(一日六名につき金一、〇〇〇円)は失費となつた。

(ロ)  資金調達の為の金利及び雑費の損害(金四五〇、六五三円八八銭)本件仮差押物件である亜鉛引鉄、鉄線等材料類合計三一、四屯(価額一、四九四、〇〇〇円)により蛇籠、菱形金網、菱形ラス等価額金二、四〇二、三五〇円相当の製品の製作が可能で、原告会社は右製品の販売により、右価額相当額の運転資金の回収を予定していたところ、本件仮差押の結果その回収が不能となり、その利用ができなくなつた。のみならず、仮差押に係る諸材料は製品製作に引当の材料であつたので、営業継続の為代替品の購入を余儀なくされ、その資金調達の為雑費金一〇七、九九三円支出して、他より金一、三〇六、〇七九円五〇銭の金融を受けた。

右運転資金の回収不能及び借入の為、原告会社は合計金三、七〇八、四六九円五〇銭に対する本件仮差押の日である昭和二七年一一月一三日より右解放の日である同二八年七月二日までの間一〇〇円につき一日金四〇銭の割合による金利合計三四二、六五八円八八銭及び前記資金調達費金一〇七、九九三円相当額の損害を蒙つたこととなる。

(2)  製品差押による損害(合計金一二五、〇〇〇円)

原告会社は製品の仮差押により、代替品の製造を余儀なくされ、その為従業員に対し残業手当金六〇、〇〇〇円、休日出勤手当金三〇、〇〇〇円支出したほか、代替品製造の為、納品に遅延を来し、緊急輸送の必要から運送特別費用として金三五、〇〇〇円を支出した。

(3)  製品及び材料差押による共通損害(合計金七三九、二四六円)

(イ)  差押製品及び材料の発銹による損害(金五五九、二四六円)

本件仮差押当時右差押に係る物件中製品金三六五、〇〇〇円、材料類は金一、八七九、〇〇〇円相当の価額(いずれも仮差押執行調書の評価額)を有していたが、仮差押期間中の発銹による値下りの為、製品については昭和二八年八月一八六、七七四円、材料類については、同年七月から一〇月までの間に金一、一三二、九八〇円の売価でしか処分できなかつたから、差押当時の価額と処分時の価額との差額合計金五五九、二四六円は本件仮差押により原告会社が蒙つた損害である。

(ロ)  本件仮差押の為、原告会社は前記のように取引先等の信用を失墜したので、大阪川崎の実情調査並びに原告会社の取引銀行、仕入先等に対する実情説明の為に調査出張費等の雑費金一二〇、〇〇〇円の支出をした。

(ハ)  原告会社は本件仮差押に対して異議の申請をなし、これに関連する訴訟追行の為役員及び弁護士等に出張旅費等の雑費金六〇、〇〇〇円を支出した。

以上はいずれも本件仮差押により通常生じた損害であるし、仮に特別損害であるとしても、被告等は金網業者の業務内容、金融状況を熟知していたのみならず、特に原告会社の事業内容については通暁していたものであるから、右損害を予見していたか、予見し得べき立場にあつたこと勿論である。

しかうして、前記のように被告梅本商行は同梅本二郎と、被告摂津鉄線は同石村安雄とそれぞれ協力して本件仮差押をなし、しかも右二個の仮差押が同時に行われて、前記(イ)の信用上の損害の発生に協同したものであるから、被告等四名は共同不法行為者としてこれが賠償する責任があるし、また被告梅本商行及び同梅本二郎は共同して原告会社の製品及び材料の仮差押をなしたものであるから、(ニ)の現実的損害を連帯して賠償する責任があるというべきである。

よつて、原告は、被告等四名に対し右信用上の損害中金八、〇〇〇、〇〇〇円、被告梅本商行及び同梅本二郎に対し現実的損害金一、四二九、八九九円八八銭及び右各金員に対する昭和二七年一一月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の連帯支払を求めるものである。と述べ、

被告等の答弁に対し、仮に被告等主張のように、被告梅本商行及び同摂津鉄線が角野金次郎を通じ原告会社に対し、大阪川崎が昭和二七年二月二二日以降振出す約束手形について連帯保証するよう申入れたとしても、原告会社は右角野金次郎を通じて右申入を拒絶しているし、また、仮に角野金次郎が擅に右被告等の申入を承諾したとしても、原告会社は角野金次郎に対し被告等主張のような将来債務の連帯保証契約の締結を委任したことがないから、被告等主張のような範囲の連帯保証契約は成立していない。仮に被告等主張のような連帯保証契約が成立したとしても次のような理由から該契約の効力はない。すなわち、商法第五五条は会社が他の会社の無限責任社員となることを禁じている。その趣旨は会社が他の会社の無限責任社員となることは、他の会社の事業経営の結果如何により、自己の全財産を揚げて無限に責任を負担することとなり、独り会社存立の基礎を危くし、会社債権者の担保を害するに止まらず、会社が自ら一定の目的の下に経営すべき業務を有し設立せられた趣旨に反するというにある。もとより、会社の無限責任社員となることと、無制限な将来債務の連帯保証とは法律上の性質を異にするものであるが、無限責任社員は責任は無限である代りに、原則として業務執行権を有し、会社経営に或る程度の発言権乃至監督権を保有し、責任も補充的であるに反し、連帯保証の場合には主たる債務会社の業務につき何等の発言権乃至は監督権なく、また連帯保証の性質上補充性を伴わない直接責任を負つているのである。したがつて、前記商法法条の立法精神からすると右のような連帯保証責任を負担する契約は無限責任社員となることよりなお一層強い理由を以て、その法律上の効力を否定さるべきこと蓋し当然である。

また、被告等主張のような連帯保証責任を負担することは、商法第二四五条第一項第二号の他人の営業と損益全部を共通による契約の損失面丈けを引受けたものに該当するから、右第二号のこれに準ずる契約として、株主総会の特別決議を経なければ、適法有効に締結し得ないのに拘らず、右の決議を経ていないから、その効力はない、と述べた。〈立証省略〉

被告等訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、原告会社が、大阪川崎発行の手形債務について連帯保証をなす旨の昭和二七年二月二二日付証書を、大阪川崎の代表取締役角野金次郎を通じて、被告梅本商行及び同摂津鉄線に交付し、原告会社と被告梅本商行及び同摂津鉄線との間に連帯保証契約が成立したこと、大阪川崎が(イ)、(ロ)の各約束手形をその記載の日時に被告梅本商行及び同摂津鉄線宛振出し、被告梅本二郎及び同石村安雄は被告梅本商行及び同摂津鉄線よりそれぞれ右(イ)、(ロ)の各約束手形を隠れたる取立委任裏書により譲渡を受けたこと、被告梅本商行及び同石村安雄から、それぞれ、原告主張の日前記連帯保証債務の執行確保の為大阪地方裁判所に各仮差押命令の申請をなし、同裁判所の各動産仮差押命令に基き、原告主張の日その主張の動産につき仮差押の執行をしたことは、いずれも争わないが、その余の事実は総て争う。

原告会社が前記証書を被告梅本商行及び同摂津鉄線に差入れたのは次の事情によるものである。すなわち、被告梅本商行及び同摂津鉄線はいずれも大阪川崎に対して、鉄材等を販売していたが、大阪川崎はもと原告会社の大阪分工場であり、昭和一六年頃統制品である鉄材等の配給を受ける便宜上、大阪分工場を株式会社組織に改組し、形式上原告会社から分離独立せしめたが、改組後においても、大阪川崎の取締役会は万事単独に決定する権限なく人事、給与に関してまでも原告会社の指示を受け、毎決算期にはその決算報告書の承認を求め、次期営業方針の指示を仰ぐ等実質上は依然として原告会社の実権下にあり、いわば一身同体の関係で、大阪川崎の債務については原告会社は主たる債務者として責任を負うべき筋合にあつたので、被告梅本商行及び同摂津鉄線は大阪川崎の角野金次郎に対して、大阪川崎が将来右被告等宛に振出す手形債務の支払については、原告会社において連帯保証債務を負担して欲しいと申入れた結果、原告会社は右角野金次郎を代理人として、これに承諾を与え、前記証書の差入れをしたものである。したがつて、大阪川崎が前記証書の日附である昭和二七年二月二二日以降において振出した(イ)、(ロ)の手形債務について、原告会社は連帯保証責任を負担すること多言を要しない。仮に右角野金次郎がその権限を踰越して前記保証契約を締結したとしても、角野金次郎は原告会社を代理して、大阪川崎が前記証書の日附である昭和二七年二月二二日以前に振出した手形債務につき、被告梅本商行及び同摂津鉄線に対して、連帯保証債務を負担する契約締結の権限を有していたから、右被告等が、角野金次郎に被告等主張のような連帯保証契約を締結する権限ありと信ずるにつき正当の事由があり且つかく信ずるにつき何等の過失がないから、いずれにしても、原告会社は(イ)、(ロ)の手形債務につき連帯保証責任を免れ難い。

原告は原告会社が連帯保証責任を負担したのは昭和二七年二月二二日附証書の日附前に大阪川崎が発行した手形債務に限られ、同日以後大阪川崎が発行した(イ)(ロ)の約束手形債務に及ばない旨主張するが、被告梅本商行及び同摂津鉄線が大阪川崎に対し商品を売渡し、その商品代金支払の為に既に手形を受領しながら、右手形債務について、原告会社の連帯保証を求めることは、手形受領後にいたり、大阪川崎の信用状態が悪化したような特殊の場合を除いては、経済上たいして意味がなく、したがつて、大阪川崎の発行する手形について連帯保証を求めなければならないような事態があつたとするならば、大阪川崎が将来振出す手形についても、連帯保証を求めなければ無意味である。また、原告は原告会社の連帯保証責任の範囲が大阪川崎が将来に向つて時間的にも金額的にも何等の制限なく振出す手形債務の全部に及ぶということは常識上あり得ない旨主張するけれども、手形の満期は振出日から二ケ月乃至三ケ月先であること、大阪川崎が被告梅本商行及び同摂津鉄線から購入する鉄材の一ケ月の平均数量は大阪川崎の工場長兼支配人である原告会社の常務取締役美川喜三郎が過去の実績に徴し十分知悉しているのみならず、原告会社としても、前記のように営業上の実権を掌握していたのであるから、十分通暁していた関係から、大阪川崎が将来振出す手形の合計額は原告会社において充分予想し得たところで、したがつて原告会社の連帯保証責任の範囲は無制限ではなく自から一定の限度があつたものというべきである。しかも、若し原告主張のように原告会社の連帯保証責任の範囲が前記証書の日附以前に大阪川崎が発行した手形債務に限るものであるとするならば、前記証書作成当時大阪川崎が既に発行していた手形債務の合計額は判明していた筈であるから前記証書にその金額を記載すべきであり、また、大阪川崎が既に発行した手形について決済を了した後は原告会社において右証書の回収を計る等適当の措置を講ずべきであつたのに、右のような適当な措置をとらなかつたことから考えて、原告の主張は理由がない。要するに原告は前記証書の文言の不備を捉えて牽強附会の論をなすに過ぎないものである。

しかうして、被告等が本件仮差押をなしたのは、大阪川崎の振出の(イ)(ロ)の約束手形が不渡となり、ついで仮差押直前頃大阪川崎は支払不能の状態に陥つたので、被告梅本商行及び同摂津鉄線は、原告会社に対し、(イ)、(ロ)の約束手形債務についての連帯保証責任の履行を求めたところ、原告会社は、大阪川崎の債務が意外に多額であり且つ当時の金網業界の不況の為金融難の状態にあつたところから、前記証書の文言が明確でないのを奇貨とし、従前右連帯保証責任を認めていた態度を急に飜し、昭和二七年二月二二日以前に大阪川崎が振出した約束手形についてのみ連帯保証責任を負担したものであるとの口実の下にその履行を拒絶したのみか、原告会社は(イ)、(ロ)の手形以外に大阪川崎の振出した手形債務につき原告会社が連帯保証責任を負担すべき債務額が二〇、〇〇〇、〇〇〇円程度に嵩んでいたことと、前記の態度からして、これらの連帯保証責任を免れる目的を以て、財産隠匿等何等かの措置を講ずる気配が察知されたので、被告梅本商行及び同摂津鉄線は右連帯保証債権の保全手続を執る必要があつたが、偶々当時大阪法務局において商業登記改製の為昭和二七年一一月一三日まで商業登記に関する資格証明書の交付事務を停止していたから、被告梅本商行及び同摂津鉄線の各代表者の資格証明書の交付を受けることができず徒らに右資格証明書の交付を待つていては右債権保全の機を逸する危険があつたので、已むを得ず、被告梅本二郎は同梅本商行の、被告石村安雄は同摂津鉄線の各取締役であつた関係から、(イ)(ロ)の約束手形をそれぞれ隠れたる取立委任裏書により譲渡をうけるとともに前記連帯保証債権を行使する権利を取得し、弁護士の意見を徴したうえ、本件仮差押の申請に及んだものであり、そして、本件仮差押の執行当日、原告会社に対して円満解決の希望を述べて善処を促し、一部の弁済を得れば残金の支払について示談に応ずる意向を伝え、若し任意弁済に応じられない場合は仮差押解放金額の供託があれば、執行に着手しない旨告げて、原告会社が右申入れにいずれも応じないことを確めた上執行に着手したものであり、執行著手後も差押の公示書貼付には執行立会人数以外の者には容易に発見できないような場所と方法を選ぶ等原告会社の信用を毀損しないよう細心の注意を払つたものであるから、若し右仮差押の執行により原告会社の信用が毀損されたとすれば、それは原告会社自からが右事実を他に吹聴した結果であつて、被告等がその責を負う筋合はない。なお、被告等の調査の結果、原告会社には不動産及び二、〇〇〇、〇〇〇円相当の商品等の動産を有することが判明したが、原告会社の土地、建物等の不動産は現に同会社において使用中であつて将来の本執行が容易でないところから、先づ換金の容易な右動産を仮差押の目的物件に選択したもので、このことは被告等債権者としては当然の措置である。

以上のように被告等は本件仮差押当時被保全権利である原告会社に対する連帯保証債権の存在及び被告梅本二郎及び同摂津鉄線がこれを行使する権利があることを確信し且つこれを確信するにつき相当の理由があつたものであり、しかも、仮差押の必要性についても何等欠くるところがなかつたから、被告等は本件仮差押につき原告主張のような故意乃至は過失の責むべきものはない。

したがつて、原告の本訴請求はいずれも理由がない。と述べた。〈立証省略〉

理由

原告会社が大阪川崎発行の手形債務について連帯保証をなす旨の昭和二七年二月二二日附証書を大阪川崎の代表取締役角野金次郎を通じて、被告梅本商行及び同摂津鉄線に交付し、原告会社と被告梅本商行及び同摂津鉄線との間に連帯保証契約が成立したこと、大阪川崎が原告主張の(イ)、(ロ)の約束手形を被告梅本商行及び同摂津鉄線に振出し交付したがいずれも不渡となつたこと、被告梅本二郎及び同石村安雄は(イ)、(ロ)の各約束手形を被告梅本商行及び同摂津鉄線から、それぞれ隠れたる取立委任裏書により譲渡を受け現に所持人であることはいずれも当事者間に争がない。

そこで、本件の主要争点である前記原告会社の連帯保証責任の範囲は前記証書の日附である昭和二七年二月二二日以後に振出された(イ)、(ロ)の約束手形債務に及ぶかどうかの点について判断することとする。

原本の存在並びに成立について争のない甲第一、二号証、成立に争のない甲第三、四号証の各三、第九号証の一、二、証人角野金次郎の証言により真正に成立したと認める乙第八、第一四号証に証人窪田錠吉、角野金次郎、村元栄司こと村元利彰、牛場良夫、伊藤貞一の各証言を綜合すると、前記角野金次郎は昭和二七年二月二二日原告会社取締役美川喜三郎に対し「大阪川崎の被告梅本商行及び同摂津鉄線外二社に対する商品代金債務は既に合計一五、〇〇〇、〇〇〇円に嵩み、金網業界の不況の影響もあつて、これらの取引先は、取引代金の回収に危惧の念を抱き始めている。ついては、大阪川崎としては、右取引先との従前通りの円滑な取引を継続する為には是非とも大阪川崎が将来右四社より買入れる商品代金につきその支払の為に振出す約束手形債務の支払を、原告会社において連帯保証してほしい旨の申入をなした。原告会社と大阪川崎とは現在形式上は別個独立の会社であるが、大阪川崎はもと原告会社の大阪分工場であつたが、昭和一六年頃統制品である鉄材等の配給を受ける便宜上別個の株式会社に改組し、形式上は原告会社より独立せしめたものである関係から、改組後においても、大阪川崎においては株主総会を開催したことなく、毎決算期にはその決算報告書の承認を原告会社に求め、次期営業方針の指示を仰ぎ、社員の人事給与にいたるまで原告会社の指示を受ける等、実質的には原告会社の実権下にあり、いわば本店と支店との関係と何等選ぶところなく、大阪川崎の債務は原告会社の債務と同視しうべき関係にあつたので、原告会社は右角野金次郎の申入を早速諒承し、同人に対して昭和二七年二月二二日附証書を交付した。そこでその頃角野金次郎は右証書を携行の上被告梅本商行及び同摂津鉄線に赴き、将来大阪川崎が発行する手形債務については、原告会社が連帯して保証する旨申入れて、右被告両社に対して前記証書を交付した事実が認められ、右認定に反する甲第九号証の二記載の一部、証人窪田錠吉、村元栄司こと村元利彰、伊藤貞一の各証言部分は当裁判所は信用しない。

原告会社と大阪川崎とは前顕のような関係にあつたところからすると、角野金次郎は実質的には原告会社の大阪支店長たる地位を有していたと見るべきであるし、後記認定のように乙第八、第一四号証が広く原告会社が連帯保証契約締結当時の大阪川崎振出に係る既往の手形債務のほか将来振出すべき手形債務について連帯保証する趣旨の書面であることから推考すると、原告会社が大阪川崎発行の手形債務について連帯保証をなす範囲は角野金次郎の判断にまかすこととして、その締結を同人に一任したものと解するを相当とするから、角野金次郎は原告会社の代理人として、大阪川崎が将来発行する債務について連帯保証する趣旨の保証契約を被告梅本商行及び同摂津鉄線と締結したものというべきである。

尤も、原告は、被告梅本商行及び同摂津鉄線は角野金次郎を通じて大阪川崎振出の既往の手形債務につきその支払を連帯保証してほしい旨の申入があつたので、原告会社は前記証書により昭和二七年二月二二日以前に大阪川崎振出の手形債務についてのみ連帯保証責任を負担したに過ぎない旨主張するが、証人窪田錠吉、村元栄司こと村元利彰の各証言により真正に成立したと認める甲第一〇乃至第一三号証、前記措信しない甲第九号証の二の記載の一部及び証人窪田錠吉、村元栄司こと村元利彰、伊藤貞一の証言部分を措いては他にこれを認めるに足る証拠はなく、右甲第一〇乃至第一三号証は、前記甲第九号証の二の他の部分証人角野金次郎の証言により真正に成立したと認める乙第一乃至第七号証、第九乃至第一三号証、証人窪田錠吉、牛場良夫、伊藤貞一、米田義雄の証言を綜合すると、前記のように原告会社は大阪川崎が昭和二七年二月二二日以降に振出の手形債務について連帯保証することになつたところ、その後大阪川崎の業績振わず被告梅本商行に対しては金五、二八六、七三五円、被告摂津鉄線に対しては金一、六二五、〇〇〇円の約束手形債務を負担するにいたり、その他の者に対する債務を合すると債務額が二〇、〇〇〇、〇〇〇円の多きに達するにいたり、為に被告両者を含む債権者等より大阪川崎乃至は原告会社の速なる債務の支払を強く迫られた角野金次郎は昭和二七年一〇月中旬頃原告会社を訪れ、大阪川崎の右窮状を訴えるとともに、被告梅本商行及び同摂津鉄線等の原告会社に対する前記連帯保証債権の履行方の要望を伝え、右債権者等は直接原告会社に対し連帯保証責任の追求の手段を採ることを必至の状勢にある旨告げて、原告会社の右連帯保証債権の履行により大阪川崎の危場を救つてほしい旨援助方を求めたところ、原告会社においては、その連帯保証責任を負担した債務額が意外に多額であつたのと、且つ当時の金網業界の不況の為原告会社自身も金融意の如くならなかつた情況にあつたところから、偶々前記証書の文言が簡略で如何ようにも解せられることを奇貨として、被告梅本商行及び同摂津鉄線等からの連帯保証責任の追求を免れんと企図し、原告会社取締役伊藤貞一において前記証書作成の際立会つた美川喜三郎、窪田錠吉、村元利彰等関係者と協議の上村元利彰に命じて、右三名及び角野金次郎の手記として作成せしめた。原告会社が連帯保証責任を負担したのは、証書作成日附前の大阪川崎振出の手形債務に限られていた旨を確認した内容を持つ証書作成の経緯を記載した書面(甲第一三号証については、昭和二七年一一月三日再度援助懇請の為原告会社を訪れた角野金次郎に対し、原告会社はその内容の承認を求め、無理矢理に同人の承認を得たものの、角野金次郎は内容が証書作成当時の事実と異なるので、結局署名捺印を拒絶した。)であることが認められる(右認定に反する甲第九号証の二の部分、証人窪田錠吉、村元栄司こと村元利彰、伊藤貞一の各証言部分は信用しない。)から右甲第一〇乃至第一三号証の存在は必ずしも前記認定の妨げとはならないし、他に前記認定を覆するに足る証拠はない。

さらに原告は昭和二七年二月二二日附証書の文言及び日附から推して、原告会社の保証責任の範囲は右証書の日附前に大阪川崎が振出した手形債務に限られ、同日以後大阪川崎の振出に係る(イ)(ロ)の約束手形債務に及ばない旨主張する。なるほど乙第八、第一四号証の「大阪川崎鉄網株式会社が貴社に対して発行せる支払手形については弊社に於て連帯してその責に任じ万一の場合と雖も決して御迷惑はおかけ致しません」との文言中「せる」なる用語は文法上は一応過去完了を表す用語であるが、世上一般の慣用例からすると必ずしも過去完了を表す場合にのみ使用されているわけではなく、「し」または「する」を併せ意味する場合の用語として使用する例が多いこと、また右書証末尾の日附は単に証書作成の日附であつて特に内容と関連し、本文の内容を規定する意味がないこと、右書証の本文において特に原告会社が大阪川崎振出に係る如何なる手形について連帯保証責任を負担するかを限定した文言が前記「せる」との用語の外に記載のないこと等を綜合すると、右書証の文言は、大阪川崎が既に発行し、また将来発行する支払手形について連帯保証債務を負担する趣旨と解するのが常識であるから、この点の原告の主張は採用の余地がない。

原告は将来に向つて時間的にも、金額的にも無制限な連帯保証責任を負担することは、商法第五五条の立法精神に反し無効である旨主張するが、会社が他の会社の無限責任社員となることと、限度額の定めのない将来債務の連帯保証とはその法律上の性質を異にするのみならず、限度額の定めのない将来債務の保証と雖も相当の期間経過後は任意にこれを解約し、その拘束より脱し得るものであるから、必ずしも無限責任を負担した場合と同視できないし、殊に原告会社が負担した前記連帯保証責任の範囲は、通常約束手形の満期はその振出日より二ケ月乃至は三ケ月先なる顕著な事実と、証人角野金次郎の証言により認められる大阪川崎の事業能力よりして一ケ月間に大阪川崎が被告梅本商行及び同摂津鉄線より購入する材料の数量には限度があり、原告会社はこの事を知悉していた事実からして、原告会社の右連帯保証債務には自から一定の極度額があつたものというべきである。したがつていずれの点よりしても、原告のこの点に関する主張は採用の限りではない。

また、原告は前記のような将来債務の連帯保証責任を負担する契約は商法第二四五条第一項第二号の他人と営業上の損益全部を共通にする契約の損失の面のみ引受ける契約に該当し、同項の「これに準ずる契約」として、その締結には株主総会の特別決議を要するに拘らず、これを経ずして締結されたものであるから、契約として法律上の効力はない旨主張するが、前記認定のような連帯保証契約は原告が右に主張するような契約とはその性質を異にすること贅言を要しないところである。したがつてこの点に関する原告の主張もまた採用の余地がない。

そうだとすると、原告会社は前記証書の日附以後大阪川崎の振出した(イ)、(ロ)の約束手形債務について、連帯保証責任を免れないから、原告の本訴請求中(イ)、(ロ)の約束手形債務について連帯保証債務の不存在確認を求める部分は失当である。

そこで、つぎに原告主張の被告等の為した動産仮差押が果して不法行為を構成するや否やの点につき判断を進めることとする。

前叙のように被告梅本二郎及び同石村安雄は被告梅本商行及び同摂津鉄線より(イ)、(ロ)の各約束手形を隠れたる取立委任裏書により譲渡をうけ、それぞれ執行債権者として、原告主張の日前記連帯保証債権の執行確保の為大阪地方裁判所に対し原告会社を相手としその動産仮差押命令の申請をなし、同裁判所の各動産仮差押命令に基き、その主張の日その主張の動産につき仮差押の執行を為したことは当事者間に争がない。

原告は被告等が前記保証債権を行使する権限がなかつたことを知り且つ知らざるにつき過失があつた旨主張するから先づこの点から判断しよう。

前記被告梅本二郎及び同石村安雄が被告梅本商行及び同摂津鉄線から、それぞれ、(イ)、(ロ)の各約束手形の隠れたる取立委任裏書を受けたとの当事者間に争のない事実からして、これに附従する原告会社に対する被告梅本商行及び同摂津鉄線の有した(イ)、(ロ)の各約束手形債権についての従たる連帯保証債権は主たる債権である右約束手形の譲渡により、(隠れたる取立委任裏書により手形債権は信託的に被裏書人に移転するものと解する。)保証債務の附従性の当然の結果として、法律上、被告梅本二郎及び同石村安雄に信託的に移転したものと解せられる。しかうして、被告等が右のような(イ)、(ロ)の約束手形の信託譲渡の手続をとつたのは、成立に争のない甲第三、四号証の各四によると、被告等は本件仮差押を申請した当時偶々大阪法務局において商業帳簿の改製の為登記事務を停止し、被告梅本商行及び同摂津鉄線の各代表者の資格証明書の交付を受けることがでず、これが交付を受けることができるまで荏苒日時の経過するのを待つていては、前記債権保全の機を逸する危険を招来することになるところから、この危険を脱する手段として、已むなく、被告梅本商行は同社の取締役である被告梅本二郎に、被告摂津鉄線は同社の取締役である被告石村安雄に、それぞれ(イ)、(ロ)の各約束手形債務について隠れたる取立委任裏書を受け、本件各仮差押申請に及んだものであることが認められるから、右のような事情の下においてなした本件隠れたる取立委任裏書は本件各仮差押をなさしめることを目的としてなしたとしても、濫訴の弊害を防止することを目的として訴訟信託を禁止した信託法第一一条の精神よりして訴訟信託に該当しない。さて、(イ)、(ロ)の各約束手形の信託譲渡、したがつて右各手形に附従する連帯保証債権の信託的移転が有効である以上保証債務は附従性を有し、被保証債務の移転と同時に保証債務もまた当然に移転し特に保証債務について譲渡行為を必要としないものであるから、被保証債務の移転について対抗要件を履践することを要する外更に保証債務の移転について対抗要件を履践することを要しないものと解すべきであり、従つて本件(イ)、(ロ)の各約束手形に附従する連帯保証債権の信託的移転についても民法所定の対抗要件を履践せずして被告梅本二郎及び同石村安雄をして、右連帯保証債権を被保全権利として本件仮差押申請に及んだことは法律上何等違法な行為となすわけにはいかない。

つぎに、原告は、被告等の仮差押の申請はその必要性のないのになした違法がある旨主張するから、この点について判断することとする。

前記のように原告会社は形式上は連帯保証責任を負担するとはいいながら、実質的には主たる債務者に比すべき立場にあつたのみならず、主たる債務者である大阪川崎が当時既に支払不能の状態にあり原告会社が連帯保証責任を負担すべき債務が金二〇、〇〇〇、〇〇〇円の多額に達していたこと、及び被告梅本商行及び同摂津鉄線よりの角野金次郎を通じての支払要求に原告会社は応じなかつた事実に鑑みると、他に特段の事情がない限り、被告等のなした本件仮差押にはその必要性において欠くるところがなかつたものといわねばならない。

しかうして、仮差押の執行債権者はその目的物につき債務者の不動産を選択すると動産を選択するとは、もとより自由であつて、被告等が、本件仮差押につき原告会社の動産を選択したことは、換金が比較的容易で且つ最も執行確保の目的から見て効果的だと信じた結果であつたことは、本件口頭弁論の全趣旨から認め得られるところであるから、このことを捉らえて、直ちに、被告等の本件仮差押の執行につき故意乃至は過失の責むべきものありとなすを得ない。

そうだとすると、被告等の本件仮差押につき何等違法の点はないから、被告等のなした本件仮差押が不法行為を構成することを前提とし被告等に対し損害賠償を求める原告の本訴請求部分もまた失当である。

よつて、原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 相賀照之 中島孝信 小畑実)

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